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京都地方裁判所 昭和30年(ワ)468号 判決

原告 谷口平三郎

被告 京都市

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は被告は原告に対して金十七万七百二十六円を支払え、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求原因として、

一、原告は大正十二年三月三十一日京都市書記に任命せられ、同市下京区役所に勤務していた者であるが、同区役所庶務課衛生係主任として勤務中の昭和八年十二月十一日起訴され、収賄罪により懲役五月に処せられ該判決は同九年五月二十八日確定し、その間被告市より同八年十二月十二日休職を命ぜられ翌九年十月十七日に同年九月五日付依願免本職の辞令の交付を受けた。

二、そこで原告は京都市有給吏員退隠料、退職給与金、死亡給与金及遺族扶助料条例(明治三十二年十一月一日市公告第一八二号、以下単に本件条例と略記する。)第五条本文に基き、昭和九年十二月三日被告市の市長に対し退隠料等の請求をしたところ、被告市の市長は同十年三月十六日原告が在職中の収賄罪により懲役五月に処せられたので本件条例第十一条第三号によりその権利を失つているとして却下し、原告はこれに対し昭和十二年八月十三日市長に異議の申立をなしたが、被告市の参事会は同年十月十六日当時の市制第百六十条所定の不変期間を経過しているとして却下し、更にこれに対し原告は同年十一月三日付で京都府参事会に訴願したが、これも同年十二月十六日却下せられ、最後に行政裁判所に対して出訴したが、同十三年四月二十八日右と同様の理由により却下の判決を受けた。

三、然しながら原告はかような形式的却下処分には承服しがたいので昭和二十七年四月二十八日施行の復権令第二条を援用し、昭和二十九年十一月二十五日被告市の長に対し異議申立をなしたところ、同年十二月二日付で左記理由により申立を棄却された。

(1)  本件条例第十一条第三号の規定は犯罪の発覚が退職後の場合に適用せられること勿論であるが、原告のような場合にも、退職後と在職中の相違によりその取扱を区別することから生ずる不公平をさける公平の理論から、等しく適用せらるべきであつて、原告の退隠料請求権は発生しなかつたといわるべきである。

(2)  前記二、記載の異議の申立、訴願、行政訴訟における却下決定、却下裁決、却下判決により被告市の市長が昭和十年三月十六日なした原告の退隠料請求却下の行政処分は形式的確定力を生じたからこの限りにおいて原告は最早争うことができない。

(3)  復権に関しては資格回復は将来に向つてのみ発生するだけで有罪言渡に基く既成の効果は変更されない。

(4)  一旦退隠料を請求した以上時効によつて消滅せずとの点は、原告には退隠料を受ける資格が最初から有効に発生していないのであるから結局理由がない、と。

そこで原告は更に昭和二十九年十二月十九日京都府知事に対し訴願を提起したが、退隠料に関する事件は訴願法の訴願事項に該当しないとして昭和三十一年一月二十二日却下された。

四(1)  然しながら原告は市有給吏員として在職十一年の昭和八年十二月十一日収賄罪により起訴されたところ、その翌日休職を命ぜられ、同罪により懲役五月に処せられ服役し、同九年十月十六日満期出所し、その翌十七日同年九月五日付の依願免本職の辞命書を受領したのであつて、本件条例第五条但書の何れの事由にも該当しないから退隠料受給権を有するものである。

(2)  即ち本件条例第五条は退隠料受給権(資格)の取得喪失に関する規定で喪失事由を解職、免職、失職にかからしめており、被告市有給吏員が在職中の犯罪により在職中禁錮以上の刑に処せられた場合に対しては単にその事実のみをもつて特に事由としていない。これは未だ在職中の場合は監督権、懲戒権を有するので事案の情状に照して解決するを妥当とし、その者に退隠料を与えるか否かは被告の任意であつて、これを与えないとするときは解職、免職、失職等の処分をなし、又諸般の情状に鑑みこれを与えるを可とする場合は休職、依願免本職の処分をする法意であつて、このことは明治四十四年十月被告告示の辞令文例就中その第五項及び註によつても明らかである。而して本件の場合においては当時の被告の市長は大森吉五郎氏であつたが、原告の出所直前に庶務係吏員井上某が原告方に来り原告の妻いまに対し、原告に退隠料を給与することになつたから此の辞職願に捺印するようにと書類を出したので原告の妻はそれに捺印し、その後被告市から依願免本職の辞令が交付されたのであるから、被告市は原告の情状を汲んで退隠料を給することを可として依願免本職の処分をしたことが明かである。而してかゝる依願免本職の処分自体により、被告市の市長の別個の裁定を要せず、直ちに具体的退隠料請求権即ち民事上の債権が発生し、これが現実の給付をうけるためには、在職中の履歴書と戸籍謄本を添付した請求書を提出すれば足るのであり、原告は適式な請求書を提出して給付を請求したものである。然るに昭和十年二月十九日被告の市長に浅山富之助氏が就任するや被告市は本件条例第十一条第三号を援用し原告に対する退隠料給与を否認しはじめたのであるが、被告市が一旦決定した依願免本職の処分はその市長が代つたからとて何等の消長あるべき筈のものでなく本件条例第十一条は現に退隠料を受けている者についての権利消滅を規定したものと解すべく、同条第三号の「在職中ノ犯罪ニヨリ禁錮以上ノ刑ニ処セラレタルトキ」とは退職後に在職中の犯罪により禁錮以上の刑に処せられたる場合を指すものであつて、原告のように在職中に禁錮以上に処せられた場合には関係ないものと考えられるから、被告市の市長のなした昭和十年の退隠料請求却下及び昭和二十九年の異議棄却の理由は法令の適用を誤つたものである。これは一見公平の理論に反するようであるが一旦退職により退隠料受給権を取得したものは、最早吏員ではないため、退隠料給与又は不給与の裁量処分が不可能のため一律にその受給権を失うとしたのであり、未だ吏員たるものに対しては適切な裁量権を行使する余地があるのでこれを行使することにしたのであるから、別に公平の理論に反するものでなく、本件条例第五条と第十一条はその法意を異にすることを知るべきである。

(3)  又被告の市長の異議棄却理由の行政処分の形式的確定力云々は、本件については未だ本案の審査がなされず形式的確定によつて既判力を生ずることはないから理由がなくそもそも原告は前述の如く本件において行政処分の取消を求めているものではなく、具体的退隠料即ち民事上の債権の支払を求めているのであるから、旧憲法下においても司法裁判所へ出訴できたもので本件に対して行政処分の形式的確定は関係がない。

五、以上の理由により原告は退隠料の受給権を有するのであり、その支給は退職となつた昭和九年十月十七日の翌月たる同年十一月一日より受けるべきこととなるから、ここに同月より昭和三十年四月分までの退隠料を請求することとする。而してその受給金額の詳細は別添退隠料受給金額明細表記載のとおりとなるから、その合計額金十七万七百二十六円の支払を求めるものであると述べ被告の主張に対し(一)、被告の主張はすべて否認する。(二)、旧市制第百七条は給与につき異議あるとき市長に申立てることを定めたものであるが、原告は被告市の市長から依願免本職の処分により原告に退隠料を給するという意思表示を受けたから同法条に定める異議はないのであるが、被告が原告に対して現実に民事上の債権の支払をしなかつたため、誤つて異議訴願、行政訴訟を提起したにすぎず、本訴は右異議訴願行政訴訟と関係なく民事上の債権である退隠料の支払を求めているものである。(三)、京都市吏員任用規定には被告主張の如き規定はあるが、該規定はたゞ被告の内規約規定であり、且つ最初の任用についての条件にすぎないのであるから、被告が過つてかゝる不適格者を市吏員に任用したとしても、別個の解職、免職等の処分がない限り正当な市吏員として給与は勿論、所定年限勤務することにより退隠料受給権を取得するものである。従つて在職中に任用不適格事由が発生したとの一事を以て、被告の何等の処分もなく当然に失職したとすることの主張は明文のない限り失当である。又本件条例第五条三号が禁錮以上の刑の宣告を受けた場合の当然失職を間接的に規定しているというが、もしそうであるならば同号は「禁錮以上の刑に処せられたるとき」とのみ規定すれば足るといわねばならないから、同号は被告の裁量により失職者とする場合(その旨通告し又は放任しておいても可)を指すものであり、現行の職員の分限に関する被告市条例第八条に情状により失職しないものとすることの出来る明記も参考となるとおり、被告を失職者とせず依願退職の処分をなしたときは、本件条例第五条三号にあたらないのである。又地方公務員法は昭和二十五年公布されたものであつて本件当時存したものでないから本件に関係なく判断の資料とならない。次に原告に対する依願退職の取扱手続は正しいものであるが仮りに誤つた手続であつたとしても公務員任免の行政処分が明かに存在するのにそれをはなれて当然無効なるものはありえないから、被告が原告に対してなした依願免本職の行政処分を取消さない限りその無効を主張しえないものであると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、一、答弁として

(一)、請求原因第一項乃至第三項は認める。

(二)、請求原因第四項の(1)号は原告が本件条例第五条によつて退隠料受給権を有する点は否認し、その余は認める。

(三)、請求原因第四項の(2)、(3)、号はこれを争う。

(四)、請求原因第五項はこれを争う。但し仮りに原告に退隠料受給権ありとすれば、退隠料金額が原告主張のとおりとなることを認め、

二、次に

(一)、原告の主張自体によつて明かなとおり、京都市長の原告に対する昭和十年三月十六日の退隠料請求却下処分は、行政裁判所の判決確定により確定したものであり、旧市制第百七条によれば、退隠料の給与に関しては行政訴訟(広義における)による救済方法が認められており、終局的には行政裁判所に対する出訴が認められているのであるから、退隠料の給与に関する争証は旧法当時においては司法裁判所の権限に属しないものであつた。ところで新憲法により行政事件も司法裁判所の権限に属する様になつたが司法裁判所は既に行政裁判所の判決によつて確定した行政処分を審判する権限を有しないことは旧法当時におけると差異はない筈である。このことは行政裁判所法第十九条に同裁判所の裁判に対し再審を求めえないことを定めていることからも推測しうることであつて、行政事件訴訟特例法がこの規定と異なる趣旨の規定をおいたと認められる点は毫も存在しない。されば前述の如く被告市の市長の却下決定が行政裁判所の判決確定により確定し、これに対し現在も司法裁判所が右行政処分を審判することができない以上、退隠料請求権の発生の有無にかかわらず本訴請求の理由のないことは自明のことである。

(二)(1)、原告が退職した頃には被告市においては市吏員に関する分限規定がなかつた。然しその頃施行の京都市吏員任用規定(大正六年五月七日告示)は禁錮以上の刑に処せられた者は吏員に任用せずと規定しており、これは任命の絶対的能力要件と解せられるから、その当然の結果として、吏員が禁錮以上の刑に処せられたときは失職するものと解すべく、又本件条例第五条第三号には「禁錮以上ノ刑ノ宣告ヲ受ケタル為失職シタルトキ」との文言があるから、吏員が禁錮以上の刑の宣告を受けたる場合は当然失職することが間接に規定せられていたものと解すべきである。この理は地方公務員法第十六条、第二十八条第六項の規定に鑑みても正当であるというべきである。然らば原告主張の如く在職中起訴され、休職を命ぜられ、収賄罪により懲役五月の宣告をうけ、昭和九年五月二十八日それが確定した原告は当然失職となるから、本件条例第五条第三号によつて退隠料をうける資格を有しないこと明らかである。

(2)  尚原告の退職は昭和九年九月五日付で依願免本職の形式になつているが、前述のように懲役刑に処せられ当然失職となつた以上、退隠料受給資格を失つてしまい、爾後における退職の形式如何により影響せらるゝことはありえないから、これは依願退職として取扱つた手続が誤つていたにすぎないのである。

(3)  尚右主張を敷衍すれば(イ)現行公務員法の解釈として、任用の要件を資格要件と能力要件に区別し、後者は任用のための絶対的要件で誤つてこの欠格条項に該当する者を任用しても、それは法律上不能の事項を内容とするものであり、その任用は当然無効であると解せられ、又職員が採用後能力要件事項たる任用の欠格条項に該当するに至つた場合は明文で失職する旨規定し(国公法第七十六条、地公法第二十八条第六項)、この問題は行政行為の失効の法理を以て論ぜられ、右規定はこの法理の確認にすぎないと考えられており、失職の効果は欠格条項該当の瞬間において、それは当該職員との関係において法的に存在することの不可能な法関係を設定することになるのであるから、当然に任命の効果を失わせるものであると解せられている。(ロ)現行公務員法の制定前においてもその結論は同様であり、官吏は任命の能力要件を欠くことにより当然失官となると論ぜられ、天皇の官吏として現行法以上の態度で失官の法理が論ぜられていたことが窺われる。而して以上の法理は公吏関係についてもそのまゝ妥当するとともに、旧法によれば有給吏員の任免権は市町村長にあるのであるから、市町村長が任用規定や分限規定を定め得、失職原因についても自治的規定に委されていた。それゆえ自主的法規によつて有給吏員がその職を失う場合を規定しても違法ではなく法律はそのことを禁止せず、又このような失職の規定のない場合にあつても、失職原因規定は確認的なものにすぎないから、自主的法規で定める任命のための絶体的能力要件を欠くに至つた場合は、既述の法理により当然に失職したものと解すべきであると述べた。(立証省略)

理由

一、原告の主張の基本を要約すれば、原告は依願免本職の辞令の交付をうけたから退隠料請求権を有するものであり、該請求権は民事上の債権であつて異議、訴願、行政裁判所の裁判と関係なく司法裁判所に給付の訴を提起し、現実の支払を求めうるものであるというのであるが、(1)、先ず退隠料は地方公共団体から退職の公務員に対し、その生活にあてるために支給される金銭で、公務員の地位にある者が受ける権利ではないが、公務員の身分に伴う権利で俸給請求権の延長と考えられてよいものであるから、純然たる私法上の権利ではなく、公法上の権利であるといわなければならない。而して旧憲法下司法裁判所は公法上の権利に関しては法令に別段の規定ある場合の外裁判をする権限を有せず、退隠料の請求に関しては司法裁判所に訴を提起できることに関してなんらの法令なく、却つて旧市制(明治四四年四月七日法律第六八号)第一〇七条によれば、「退隠料等の給与につき関係者において異議あるときはこれを市長に申立つことを得」「これに不服ある者は府参事会に訴願し、更に不服ある者は行政裁判所に出訴することができる」趣旨の定めがあつたので、所謂民事事項に属せず、従つて旧憲法下においては、退隠料請求に関しては司法裁判所に管轄がなかつたものといわなければならない。それ故原告主張のような異議、訴願、行政裁判所に対する出訴は誤つてなされたものでなく、適法で且つ唯一の不服申立方法であつたといわなければならない。(2)、原告の被告市の市長に対する退隠料請求は、昭和一〇年三月六日却下され、これに対する不服申立も最終的に昭和一三年四月二八日行政裁判所において、旧市制第一六〇条の異議申立期間徒過の故を以て却下せられ、右被告市の市長の退隠料請求却下処分が確定したことは当事者間に争がない。然しながら原告は新憲法、新行政事件訴訟特例法下公法上の権利関係訴訟(当事者訴訟)とみるべき退隠料の給付請求をしているのであり、かかる請求は新法下においては司法裁判所に適法に出訴しうるものであるから、前記退隠料請求却下処分が確定したことが原告主張の請求権の有無の判断につき影響を及ぼすことあるは後段説示の通りであるが、このことが直に本訴を不適法ならしめるということはできない。

二、そこで原告にその主張するが如き退隠料請求権が具体的に発生したかどうかにつき更に考えを進めてみると、(1)(基本的)退隠料請求権は一般抽象的にいえば恩給と同じく通常退職の日に単なる期待権から変化して権利として発生するものと解せられるが、これは退隠料請求権者が地方公共団体に対し一定の時期に支分権たる退隠料の支払を請求できる基本的退隠料請求権を、確定しうべき抽象的権利として取得することを意味するもので、退隠料請求権者が現実に一定額の退隠料の支払を請求しうるためには、先ず基礎として基本的退隠料請求権が具体的に確定される必要があり、恩給の場合に恩給局長の裁定を必要とすると同様に、退隠料の場合は退隠料支給権者たる地方公共団体の長の具体的な裁定ともいうべき行政処分(確認行為)によつて、基本的退隠料請求権の存否及び範囲を確定することが必要であり、これなくしては未だ具体的退隠料請求権を取得せず、退隠料の給付を現実に請求できないものと解せられる。(最高裁昭二九年一一月二六日言渡判決、民集八巻一一号二〇七五頁、和歌山地裁昭和二八年一月一六日言渡判決、行裁例集四巻一二号三二〇二頁参照)(2)原告は被告市の市長の依願免本職の辞令の交付を以て退隠料を支給されたと主張するが、依願免本職の辞令は被告市の辞令文例(甲第四号証)によれば、退隠料を受くる資格ある吏員に交付される立前であることが認められるが、これからいゝうることは本件条例第五条但書の退隠料受給資格の欠格者(退隠料受給権が退職の事実によつて抽象的権利としても全然発生しない。)として取扱われていないというだけであるし、そもそも辞令の有する本来の意味からいつても、また、本件条例施行細則(甲第七号証)第一、第二、第一〇条等の「退隠料を受くべき者は在職中の履歴書及戸籍謄本を添付した請求書を差出すべく」「退隠料を給すべき者には市長が退隠料証書を交付する」旨の規定からいつても、到底右辞令の交付が退隠料支給裁定の効力を有するものとはいえない。(3)次に本件においては原告が退隠料請求権の裁定ともいうべき行政処分を求めたのに対し、被告市の市長は昭和一〇年三月一六日原告に(基本的)退隠料請求権は、本件条例第一一条第三号に該当しその権利を失つているとして却下し、この却下処分は行政裁判所の却下判決により確定したことは前述の如く当事者間に争なく、この却下処分は一の行政処分であるから公定力を有し、これを取消さない限り原告は勿論行政庁も第三者も右却下決定に拘束される。(なお現在となつては取消請求は出訴期間の徒過によりできない。)たゞ行政処分が無効な場合は公定力もなければ出訴期間もないから別個に考えられるが、本件においては仮に右却下処分が無効であるとしても、該処分の効力がはじめからないというだけのことであり、なんら具体的に確定した(基本的)退隠料請求権が裁定されたということにならないから、現実の退隠料給付請求が認められるためには新たに市長によつて基本的退隠料請求権を確認する裁定ともいうべき行政処分を必要とするものといわなければならない。(4)然るに三権分立の現行憲法下司法権を行使する裁判所は行政権を行使する行政庁に対して行政処分をなすべき旨の裁判をすることはできないものと解されるところ、退隠料請求権確認の裁定ともいうべき行政処分がなされたことについて主張も立証もない本件においては、原告が確定しうべき抽象的権利として基本的退隠料請求権並びにこれから派生する支分権的退隠料請求権を有すると否とにかゝわらず、原告は被告に対し具体的な基本的退隠料請求権を取得していないのであり、従つて一定の退隠料金員給付請求権を有しないものといわなければならないから、原告の主張は遂にその理由がないものというべきである。よつて、爾余の判断をするまでもなく、原告の請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 宅間達彦 坪倉一郎 吉田治正)

退隠料受給金額明細表

退職当時月給

退職当時給料年額

昭和二十三年十月改正給料年額

給料年額三分ノ一

一ケ年加算給料年額百分ノ一

退隠料年額

改正前及改正后の年月に亘る退隠料合計金額

九五円

一、一四〇円

三八〇円

一二円

三九二円

自昭和九年十一月

至同二十三年九月分

金五、四五六円

増額せし条例の根拠

昭和二十三年十月改正

二四、〇〇〇円

八、〇〇〇円

二四〇円

八、二四〇円

自昭和二十三年十月

至同二十四年十二月分

金一〇、三〇〇円

昭和二十三年十二月二十七日京都市条例一三〇号第四十九条により改正

昭和二十五年八月三十一日昭和二十五年一月分以降京都市条例第五十二号附則別表第一号表通改正

昭和二十五年一月改正

五三、六一六円

一七、八七二円

五三七円

一八、四〇九円

自昭和二十五年一月

至同二十五年十二月分

金一八、四〇九円

昭和二十六年十月十一日昭和二十六年一月分以降京都市条例第四十六号附則別表の通り改正

昭和二十六年一月改正

六八、四〇〇円

二二、八〇〇円

六八四円

二三、四八四円

自昭和二十六年一月

至同年九月分

金一七、六一三円

昭和二十七年三月三十一日昭和二十六年十月分以降京都市条例第八十八号附則別表第一号表により改正

昭和二十六年十月改正

八〇、四〇〇円

二六、八〇〇円

八〇四円

二七、六〇四円

自昭和二十六年十月

至同二十七年十二月分

金三四、五〇五円

昭和二十八年八月六日昭和二十八年一月分以降京都市条例第三十五号を以て改正

昭和二十八年一月是正

九三、六〇〇円

三一、二〇〇円

九三六円

三二、一三六円

自昭和二十八年一月

至同年九月分

金二四、一〇二円

昭和二十八年十二月二十四日昭和二十八年十月分以降京都市条例第五十六号を以て改正

昭和二十八年十月改正

一一一、〇〇〇円

三七、〇〇〇円

一、一一〇円

三八、一一〇円

自昭和二十八年十月

至同三十年四月分

金六〇、三四一円

合計

一七〇、七二六円

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